私たちマーキュリッチが用意している研修メニューの中に、「プレゼンテーション研修」や「ロジカルプレゼン研修」といった、話す力、伝える力を鍛えることを目的としたプログラムがあります。
企業の研修担当者の方とお話をしていると
「どうもうちの会社には、物事をわかりやすく説明するのが苦手な社員が多いんですよね。もっと伝える力がつけば、お客さんと商談もスムーズと思うのですが…」
という悩みを口にされる方が少なくありません。
また実際に受講生の方と話しても、話すこと、伝えることに苦手意識を抱いているビジネスパーソンが多いと感じます。そのためこれらの研修は非常に人気が高く、受講生の姿勢も熱心であるのが特徴です。
「みなさん、本気で話す力、伝える力を身につけたいと思っているんだな」という真剣さが、講師である私にも伝わってくるぐらいです。
言語化力の前に、論理の組み立ての力を養う
さて、その研修の場で、受講生からよく出る質問の一つにこんなものがあります。
「私は、自分が頭の中でイメージしていることを、言葉に変換するのが苦手で困っています。適切な言葉が出てこないんです。どうすれば言語化力を高めることができるのでしょうか?」
これに対して、私はいつも以下のように答えています。
「言語化力を高めることも大事ですが、まずは論理を組み立て、筋道に沿ってわかりやすく伝える力を鍛えることの方が先決ですよ」。
つまり私は、人に話がうまく伝わらない一番の理由は、「言語化力の弱さ」ではなく、「筋道を立ててわかりやすく伝える力の弱さ」にあると考えているのです。
話がわかりにくい人は、論理が飛躍していたり、話の前後関係が不明瞭だったり、その結論に至った理由がよくわからなかったりするものです。
逆に言えば、論理をしっかりと組み立てて、結論に至った理由を筋道を立てて話すことさえできていれば、適切な言葉が少しぐらいうまく出てこなくても、相手に伝わるものなのです。
論理さえ通っていれば、自分が言いたいことを、「つまり●●ということですね」というように、相手がうまく補ってくれることもあります。
筋道立てて、わかりやすく伝える力の養い方
では「筋道を立ててわかりやすく伝える力」は、どうすれば鍛えられるのでしょうか。
言うまでもなく、普段からさまざまな場面において論理的に話すことを心がけることが大事になるのですが、それと同時にぜひ採り入れてほしいのが「書く」ことです。
自分の考えを相手に伝えるための手段には、「話す」ことと「書く」ことがありますが、「話す」ことの場合、少々論理が破綻していても、表情やしぐさ、トーンで何となく相手に伝えることが可能になります。
また質疑応答を通じて、もう一度相手に説明し直すというチャンスも残されています。ところが「書く」ことの場合、こちらが言いたいことをニュアンスで相手に何となく伝えるというのは不可能です。
論理の組み立てに、かなりの神経を使わなくてはいけません。だから書く訓練を継続的に続けていると「筋道を立ててわかりやすく伝える力」も自然と高まっていくのです。
ただし「書く」といっても、毎日の業務日報をただ漫然と工夫なく書いたとしてもスキルは高まりません。一般的な業務日報は1日の行動を羅列的に記録すれば事足りるので、論理の組み立てを必要としないからです。
業務日報をトレーニングの一部として組み込む
そこでオススメなのが、もう一歩踏み込んだ形で業務日報を書くようにしてみることです。
その日の業務の中で、失敗したことや成功したことをテーマとして取り上げ、「なぜ失敗(成功)したのか。次に活かすにはどうすればいいのか」を自分なりに分析し、書き出していくのです。
分析には論理的な思考が不可欠となりますから、文章も論理的に書かざるを得なくなるわけです。
管理職や人事教育の立場にある方で、「社員の伝える力を高めたい」と考えていらっしゃるようでしたら、ぜひ社員に業務日報の書き方に、一工夫を加えてみることを推奨いたします。
そしてさらに効果があるのは、社員が書いた業務日報に、上司がコメントを書く仕組みを採り入れることです。「上司が読んでいる」という意識が働くと、「わかりやすく書かなくてはいけない」という緊張感が生じます。
いいかげんな気持ちで書くわけにはいかなくなります。また上司からコメントをもらうことで、「この書き方では、きちんと伝わらないんだな」とか「この部分は確かに意味が通じにくいな」といった気づきを得ることもできます。
弊社マーキュリッチのプレゼンテーション研修での場合
実はマーキュリッチの研修でも、「書く」ことをとても重視 しています。
たとえばプレゼンテーション研修では、みんなの前でプレゼン演習をやってもらうのですが、そのときほかの受講生には、演習を見ていて気がついたことをどんどんノートに書かせるようにしています。
(このあたり詳しくは「分析眼トレーニングという考え方」をご覧ください)
すると演習後のフィードバックの場面で、きちんとノートに書き込んでいる受講生と、ノートに書かずに済ませている受講生とでは、フィードバックの質がまったく違ったものになります。
ノートに書かずに済ませている受講生のフィードバックは、論理的に飛躍していたり、散漫なものになりがちです。
一方、気づきをノートに書き込んでいる受講生のフィードバックは、ポイントを突いており、話の筋道がわかりやすいものが非常に多いのです。
これは「書く」という作業を通じて、論理の組み立てをしっかりと行っているからにほかなりません。
このように「書く」ことによって論理的に思考する力、筋道を立てて伝える力を鍛えていけば、「話す」ときにも、論理的に筋道を立ててわかりやすく話すことができるようになります。
つまり「書く力」をつけることは、「話す力」をつけることにつながるのです。
みなさんの周りに、話すことや伝えることに苦手意識を抱いている社員がいたとしたら、「書く」ことを勧めてみたらいかがかと思います。
また日々の業務や研修などにおいて「書く」場面を増やすことは、社員の話す力や伝える力を鍛えることに必ず結びつくはずです。